運動と風景・坂牛邸
Taku SakaushiHirofumi NakagawaArchitecture
2019
CREDIT
作品タイトル
神楽坂の家
意匠設計監理
坂牛卓+中川宏文
構造設計監理
金箱構造設計事務所(担当:潤井駿司)
施工
木村工業(担当:田村、原口)
写真
川崎璃乃
DATA
竣工
2019年
所在地
東京都新宿区
主要用途
専用住宅
構造・構法
木造(一部鉄筋コンクリート造)
敷地面積
52.95㎡
建築面積
31.62㎡
延床面積
93.38㎡
建築は流れと淀み
土地に出会ったのは2017年の2月である。それから設計は始まった。しかし設計はいきなりスケッチブックに何かを書くということからは始まらない。というのは設計とは自分が今まで考えてきた、作ってきた自らの設計の蓄積の上に作られていくからである。自分の中に内面化された概念の建築と応答しながら生まれてくるのである。そこで一体自分はそれまで何を考えて建築を作ってきたのかを振り返り簡単に述べてみたい。
僕はそれまで自分の建築設計を説明する二つの作品集を作ってきた。一つは2010年に出した『Architecture as Frame』(三惠社)という本で、日本語で言えば『フレームとしての建築』である。建築は建築内外の風景を切り取るフレームのようなものであるという考えをまとめたものである。そんなふうに思う最初のきっかけは恩師篠原一男の上原通りの家を見たときに始まる。この建物はY字型の構造が特徴的で室内にもY字の斜めの柱が空間の中に露出する。その建物を見たときにここの住人はこの柱に頭をぶつけないのだろうかと思って恩師に聞くと師は、人は建築に慣れるものでありぶつかることはないと言うのであった。それを聞いて僕は建築はできたときは新鮮だけれど時間の経過の中で空気のような存在になってしまうのだろうかと少し残念に感じた。そしていつまでも新鮮でいられる建築とはないものかと考えるようになった。
そのとき建築それ自体ではなく、建築の内外にある自然、人、動物、家具など動き変化するものが建築を新鮮に保つヒントであり、建築はそうした建築の外部にあるものを感じさせる額縁、あるいはフレームのようなものであればいいのではないかと思うようになったのである。そしてそんな考えで作り続けてきた建築をまとめて本にしたのが上述『Architecture as Frame』である。例えば連窓の家#1,2,3の持つ窓群や、リーテム東京工場の大きなピロティ、富士製氷工場のトンネルのような穴は皆風景や人を切り取るフレームなのである。
さてその6年後2016年に僕は次の作品集と建築の考え方をまとめた本『Architecture as Frame and Reframe』を出版した。『フレーム、リフレームとしての建築』である。タイトルにリフレームという言葉が加わった。フレームとしての建築に操作が一つ加わったのである。つまりフレーミングしたらそのフレーミングのどこかを再度フレーミングしてその部分を強調したいということを考えた。というのもフレームとしての建築を上梓後に設計したものにはほとんどすべてフレームのどこかに強調されたフレームが入り込んでいることに気がついたのである。高低の家の茶色くて天井高の低い空間、三廊下の家の真ん中の廊下の長くて高い空間、茜の家の茜色の空間、内の家の白い吹き抜けなどは皆そういう強い空間なのである。
家が地域とつながること、あるいは住宅街に活気が現れること、などからアルファー・スペースは有効だろうと考えたのである。その考えがあったので畳屋の土間をカフェのような空間にしようという考えが自然と現れたのである。
運動と風景
そんな二つのこと「建築は流れと淀み」「アルファー・スペース」を考えている頃にこの住宅の設計は始まったのである。ここで話は2017年の2月に戻る。僕はほとんどあまり何も考えずに購入した50㎡程度の敷地を前にして二人のための家を設計することになった訳である。敷地の法的条件から考えるとここで作れる建物の構成は半地下を含む3層で各階30㎡程度の住宅である。
この全体ヴォリュームをまずどう使うか考えた。そして自然と上述した「アルファー・スぺース」をどこに置くかという問いが最初に現れた。アルファー・スペースはパブリックな場所として土足にしたい。とすると3層の真ん中に持ってくるのは使い勝手が悪いので自然と地下に配置することになった。そして日当たりなどを考えると二人がくつろぐ広間は最上階。中間には書斎と書道室という働く場を持ってくるのが自然であった。これで建築の構成は大体決まった。